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江尻隆弁護士が元部下の女性弁護士から2億円近い損害賠償を求められていた事件の判決

江尻隆弁護士が、元部下の女性弁護士から婚約不履行に基づく2億円に近い慰謝料等を請求されてきた事件の判決が出されたので、判決全文を公開します。

事件番号 平成26年(ワ)第9289号

事件名  婚約不履行に基づく慰謝料等請求事件

原本番号 OR111001160003667

原本種類 判決、合意相当審判

平成28年1月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成26年(ワ)第9289 婚約不履行に基づく慰謝料等請求事件

口頭弁論終結日 平成27年10月6日

判     決

東京都文京区************

原告            森順子

同訴訟代理人弁護士     秋田一恵

東京都新宿区*************

被告            江尻隆

同訴訟代理人弁護士     鯉沼希朱

同訴訟復代理人弁護士    二宮正一郎

主     文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は、原告に対し、1億9605万2000円及びこれに対する平成26年4月26日から支払済みまで年5分に割合による金員を支払え(附帯請求の始期は訴状送達の日の翌日である。)

第2 事案の概要

本件は、弁護士である原告が、既婚男性であり、同じく弁護士である被告から結婚を前提とする交際を申し込まれ、平成4年に婚約するに至り、以後被告と将来結婚することを前提とに、二人で会うためのマンション居室の賃料などの費用や二人が原告の両親と将来同居するための二世帯住宅の建築及びその敷地の購入の各費用の半額を被告のために立替払いしたにもかかわらず、約20年後の平成24年7月になって、被告が原告との婚約を一方的に破棄した上、上記各費用の支払も怠っているなどと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償などとして、上記費用や慰謝料5000万円等の合計1億9605万2000円の損害及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実 (以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠等により容易に認めることができる。)

  1. 原告(昭和31年生まれの女性。甲2)は昭和62年4月に司法修習を終えて弁護士名簿に登録された弁護士である。(甲17)、被告(昭和17年5月16日生まれの男性。甲1)は昭和44年4月に司法修習を終えて弁護士名簿に登録された弁護士である(乙39)。原告と被告は、昭和63年11月頃、仕事上の関係で知り合った。この頃、被告は、桝田江尻法律事務所(当時の名称。被告の所属事務所はその後現在までに複数回の統合等を重ね、現在、被告は弁護士法人西村あさひ法律事務所の社員である(甲3)。以下、被告が所属した事務所を、全て「本件事務所」という。)の経営側弁護士であり、原告は、別の事務所の勤務弁護士であった。
  2. 原告は、米国留学から帰国した後の平成3年11月、本件事務所に入所した(甲17、乙39)。当時、原告は35歳、被告は49歳であり、弁護し経験は原告が4年、被告が22年であった。原告は、平成11年8月、本件事務所を退職した。
  3. 原告は、現在まで独身で、平成3年から4年当時、両親と同居していた(甲2、17)。平成3年から4年当時、被告には現在まで婚姻関係にある妻と二人の子供がいた(甲1、乙39)。
  4. 原告は、平成5年3月から平成11年8月までに間、賃料月額9万3000円で東京都世田谷区用賀に、平成11年9月から平成15年7月までの間、賃料月額17万1000円で追う京都台東区池之端に、平成15年8月から平成20年3月までの間、チンリョy月額10万2000円で東京都千代田区神保町に、それぞれ所在するマンションの居室(以下、これらのマンションの居室を順番に「用賀マンション居室」、「池之端マンション居室」、「神保町マンション居室」といい、三つのマンションの居室と併せて「本件各マンション居室」という。)を賃借し、毎月の賃料は原告が負担した(甲9の1・2、甲17)。
  5. 原告は、平成14年5月17日、中央住宅販売株式会社(以下「中央住宅」という。)から別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下、これらの土地と併せて「本件土地」という。)を売買代金1億2685万円で購入した(甲10、17、乙13の1・2.以下、この売買契約を「本件売買契約」という。)
  6. 原稿は、平成15年1月26日、三菱地所ホーム株式会社(以下「三菱地所ホーム」という。)との間で、本件土地上に別紙物件目録記載3の住居(以下「本件住居」という。)を建築することを内容とする請負契約を代金4343万6700円
  7. (諸費用及び消費税込み)で締結し、同年8月26日ごろに本件住居が建築された(甲11、乙13の3)。

また、原告は、同年3月28日、同社との間で、本件住居の外構工事を内容とする請負契約を代金484万0500円(消費税込み)で締結した(甲12.以下、上記の二つの伊請負契約を併せて「本件請負契約」という。)

2 争点

原告と被告との間の婚約の成否及びその不履行の有無(争点1)

  1. 原告の被告に対する各損害賠償請求権等の発生の有無及びその額(争点2)
  2. 原告と被告との間の和解契約の成否(争点3.抗弁1)
  3. 原告と被告との間の婚約の公序良俗違反該当性及び原告の支出の不法原因給付該当性(争点4.抗弁2)
  4. 消滅時効及び除斥期間の成否(争点5.抗弁3)

第3 当事者の主張

1 争点1(原告と被告との間の婚約の成否及びその不履行の有無)について

(原告の主張)

  1. 婚約の成立

下記アからケまでの事実からすると、原告と被告との間には平成4年3月頃、婚約が成立していた。

ア 原告が本件事務所に入所してまもなくであった平成3年12月、原告は、被告から「二人きりで飲みに行こう」と誘われ、経営側弁護士であった被告の誘いを断れなかったため、これに応じて、東京都千代田区所在の霞ヶ関ビルディング(以下「霞ヶ関ビル」という。)地価の飲食店へ二人で行き、飲食をともにした。

その際、被告は、原告に対し、「俺もこの先、人生は長くないから、(本件事務所の共同経営者である)桝田さんのように若い人と結婚して、充実した人生を送りたい。結婚を考えてみてくれないか」と延べ、最初のプロポーズをした。

その日は、その後、原告は、被告から二次会に行こうと誘われ、銀座の小さな場0に連れて行かれ、口説かれた。また、帰りには、被告は、原告を家まで送ると言って、強引にハイヤーに乗り込んできた上、原告が自宅前でハイヤーから降りると、原告に突然キスした。

原告にとって、被告は自分の事務所の経営側弁護士であったので、原告は、事を荒立たせることは、即、解雇につながると思い、抗議できなかった。

イ 平成4年2月頃、被告は、食事に行くタクシーの中で、原告に対し、「今度は変なことはしないので、一緒に柴又にお参りに行こう」と言い、強引に原告をデートのような形で柴又に同行した。このような形で二人で会うことが1、2回あり、その後、原告は、被告からしつこく肉体関係を迫られ、被告と肉体関係を持った。

ウ それ以降、原告と被告はホテルで性交渉を持っていたが、平成5年3月、原告は、被告に事前に相談し、被告の承諾を得た上で、二人で遭うための住居として用賀マンション居室を借り、原告と被告は、その後は用賀マンション居室で会い、そこで肉体関係を持ち、原告が被告のための料理をするなどして、結婚生活にあると同じような状態にあった。

エ 批正5年、原告は、被告に対し、「私たちの将来のこと、結婚のことを話してくれなくなったが、私たちはこれからどうなるの」と尋ねたところ、被告は、「大事にするから心配しないで。もっと自信をもって俺と付き合ってくれ」と答え、結婚することが当然であると繰り返し述べた。

オ 被告は、大手渉外法律事務所の弁護士らが立ち上げた弁護士の国際会議であるインターパシフィックバーアソシエーション(以下「IPBA」という。)の理事をしていたところ、平成6年4月、被告は、原告に対し、一緒に海外旅行がしたいと述べ、原告に原告文の費用を全額負担させて、表向きはIPBAに出席するとの形で海外旅行に同行させた。その後、被告は、毎年、シンガポール、ニュージーランドのオークランド、米国のサンフランシスコへ出張と称して原告を同行させたが、その原告文の費用は原告に負担させた。

これらの旅行の間にも、原告は、被告に対し、将来のことを真剣に考えてほしい、結婚はいつかなどと何回かたずねたが、被告は、「大事にするから心配しないで、離婚には時間がかかるけれど、将来は必ず幸せにするから」と原告に約束した。

カ 平成7年、原告が本件事務所のクライアント先の人から交際を申し込まれ、プロポーズをされたところ、それを聞いた被告は、原告に対し、「自分と肉体関係にありながら第三者と結婚話をするなど信義に反することだ」と責め、交際を止めるよう迫り、場合によっては被告と原告が交際し、肉体関係にあることをこのクライアントにばらすと脅した。

キ 平成14年、被告は、原告に対し、「実はね、そろそろ俺も事務所経営から解放してもらえそうだし、子供たちも自立してくれたので(原告と)一緒に暮らすところを探しているんだよ。逗子の方に海が見える物件があったので、今度一緒に見に行こう」と告げた。

原告は、原告自身の年老いた両親の面倒を見なければならないと考えていたことから、ようやく被告と結婚して同居でき、落ち着けると期待した。ところが、被告からの逗子の物件の話は原告をコントロールするための単なる嘘であって、その後、被告は、逗子の物件についての話もしなくなった。

ク その後、原告と被告は、結婚した上で原告の両親と同居する物件の候補として、二人で本件土地を一緒に下見し、被告は、原告に対して「良いところだ」と購入を勧めた。平成14年から15年にかけて、原告は中央住宅との間で本件売買契約を締結するとともに、本件住居につき、二世帯同居の設計にし、原告及び被告の家庭と原告の両親の住む場所も区分けしてデザインした上で、三菱地所ホームとの間で本件請負契約を締結した。

ケ 原告は、前記第2の1(4)記載の期間、本件各マンションの居室をそれぞれ借りていたが、平成20年3月、神保町マンション居室を被告の了解を得て引き払った。その後、原告と被告は、ホテルで肉体関係を持ち続けた。

(2)婚約の不履行

平成23年夏頃以降、平成24年春頃までの間、原告と被告はmメールでやり取りはしていたが、疎遠な状態が続き、同年春頃からは、原告のメールに対しても被告の返信が遅くなり、最終的に、被告は、原告に対し、「中国に事務所が進出するので手一杯で、他のことは考えられない」とメールし、仕事を口実に原告との関係を絶とうとするようになった。

また、同年7月20日、原告が、被告に対し、きちんと話し合いたい旨書面で申し入れたところ、被告は、堀内国宏弁護士(以下「堀内弁護士」という。)を代理人として立て、同月24日に同弁護士を通じて婚約の事実を否定した。

このようにして、被告は、自ら婚約を一方的に解消した。

(被告の主張)

  1. 被告が平成3年12月に原告とキスしたこと及び原告主張のとおり原告と被告との間に肉体関係があったことは争わないが、これらは原告の意に反するものではなかった。また、原告と被告が二人で会うのは、多くても月に一回程度であった。

上記(原告の主張)(1)エ、カ及びキの事実は全て否認する。

また、被告が原告に結婚を申し込んだこと、原告が用賀マンション居室を借りるに先立って被告に相談し、被告がこれを了承したこと、飛行と原告が結婚生活にありと同じような状態であったこと、被告が原告に対し、「離婚には時間が掛かるけれど、将来は必ず幸せにするから」と原告に悪即したこと、被告が原告に対し、本件土地を「良いところだ」と勧めたこと、原告が神保町マンション居室を引き払う前に被告がこれを了解したことは全て否認する。

被告は、原告に対し、妻と離婚したい、離婚手続きをするなどと述べたことは一度もなく、また、原告が被告に対して被告と結婚したいと述べたこともなかったのであって、原告と被告との間には結婚の約束となる会話はなかった。また、会話以外にも、原告と被告との間には、一般的に結婚の約束をしたことを推認させる根拠となる指輪の交換や親戚への紹介などの行動もなかった。

原告は、IPBAに参加していたが、それは自らの業務拡大のためであって、「プライベートな旅行」などと評する余地のないものであり、本件事務所の経理制度上、、その費用を原告が自ら支出するのは当然であった。

被告は、何かのついでの機会に原告と土地を見た記憶はあるが、それが本件土地であるかどうかは定かではない。被告は、本件土地上に建築された建物がどのようなものであるかどうかは定かではない。被告は、本件土地上に顕著腐れた立て門がどのようなものであるか一切知らず、同建物は原告がその判断で自らと両親の居宅として建築したものと思われる。

このような事実からすると、原告と被告との間に婚約が成立したということはできない。

  1. 仮に原告と被告との間に結婚の約束と思われる会話があったとしても、原告がプロポーズがあったと主張する時点で被告がすでに婚姻していたこと、当時原告は少なくとも弁護士経験を4年程度積んで35歳になっていたことからすると、原告が、それに対して軽々に結婚の約束がされたと信頼したとは考え難く、仮に信頼したとしても、そのような信頼は法的保護に値するものとはいえないから、原告と被告との間に法廷保護に値する婚約が成立したということはできない。

さらに、原告は被告との間に約20年間婚約状態がけ遺族していたと主張するものの、被告がその間ずっと妻との婚姻関係を継続していたこと、原告が平成20年には20年以上の経験がある弁護士であり、50歳以上であったおとからすれば、原告がその間婚約が維持されていると信頼し続原告の被告に対する各損害賠償請求権等の発生の有無及びその額けたままであったとは考え難く、仮にそのように信頼していたとしても、法的保護に値するような信頼であったということはできないから、原告と被告との間に法的保護に値する婚約が成立していたということはできない。

2争点2(原告の被告に対する各損害賠償請求権等の発生の有無及びその額)について

(原告の主張)

(1)上記1(原告の主張)のとおり、原告と被告は、平成4年3月には婚約してにもかかわらず、被告はこれを約20年後の平成24年になって一方的に解消したところ、このような被告の一方的な婚約破棄は、不法行為又は債務不履行に該当する。

また、被告は、原告から、早く結婚したいという意向を聞いていたのであるから、仮に被告に当初から原告との結婚の意思がなかったのであれば、被告が原告に対して結婚する意思がないことを伝えなかったことは、不作為による不作為に該当し、また、被告は、原告と結婚の意思があるかのように振る舞い、原告を欺もうとしたのであり、このような行為は不法行為に該当する。

そして、原告は、約20年にわたって、婚約者であり自分の所属する法律事務所の経営側弁護士でもあった被告に対し、勤務弁護士としての貢献を超えて仕事面で貢献し、被告の仕事上のミスをかばい、後記(4)のとおり被告のためにいわれなき解決金を負担させられ、本件事務所を追われ、二人であうための本件各マンション居室で内縁関係を続けさせられ、被告のためにも家事もさせられ、多額の旅行費用も負担させられ、二人で将来同居するための本件住居の建築費用及び本件土地の購入費用を負担させられ、ほかの人との交際や結婚を脅されてやめさせられ、ケコンスル機会を失わされるなどしたところ、これらによる原告の精神的損害は、5000万円を下らない。

(2)原告は、被告との婚約関係を維持するため、被告と二人で会うために、事前に被告に相談し、後に家賃などを支払うとの承諾を得た上で、前記第2の1(4)記載のとおりの機関、本件各マンション居室をそれぞれ借りていた。

本件各マンション居室を借りることによって原告が負担した家賃及び管理費は、用賀マンション居室については725万4000万円(家賃月額9万3000円×78箇月)、池之端マンション居室については820万8000円(家賃月額17万1000円×48箇月)、神保町マンション居室については571万2000円(家賃月額10万2000円×56箇月の合計2117万4000円であり、本件各マンション居室賃借の維持管理のための諸経費は860万円であったところ、これらの合計額2977万4000円から被告の既払分である神保町マンション居室の最初の一年分の家賃の半額である61万2000円を控除すると、原告の損害額は2916万2000円となる。)

これらの損害は、上記(1)の被告からの婚約の一方的な解消によって生じたものであること、被告はこれらの金銭を支払うことについて事前に合意していたものであることからすると、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係にある損害であるとはいえ、原告の被告に対する2916万2000円の損害賠償権が発生している。

  1. 原告は、婚約者である被告及び原告との両親と将来同居するため、事前に被告から取得費用の半額を被告において負担するとの了承を得た上で、本件売買契約及び本件請負契約を締結して、本件土地を購入するとともに、本件住居を建築し、これらによって、原告は売買代金及び請負代金等合計約一億8000万円を負担した。

これらの損害は、上記(1)の被告から婚約の一方的な解消によって生じたものであること、被告はその半額を支払うことについて事前に合意していたものであることからすると、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害であるとはいうえ、原告の上記負担額の半額である9000万円について、原告の被告に対する損害賠償権が発生している。

  1. 原告の本件事務所在籍中に本件事務所が発行会社側の代理人として関与した転換社債の発行及び引受けに関する案件(以下「本件社債案件」という。)において、これをあっせんしていた当時の日興證券株式会社(以下「日興證券」という。)との間で仕事上のトラブルが生じ、発行会社が申立人、日興證券が相手方となり、東京簡易裁判所において調停(同裁判所11年(メ)第8465号。甲7。以下「本件調停」という。)が行われたところ、本件調停に本件事務所の一員であった原告及び本件社債案件の本件事務所側の責任者であった被告が利害関係人として参加した。

この件について、原告には責任がなかったにもかかわらず、本件調停の調停期日に先立ち、被告は、原告に対し、「一切の責任を押し付けるようなことはしないから、日興證券との交渉は私に任せなさい。ほかの弁護士に迷惑をかけないように内緒でうまく納めてあげr」と命令したり、調停期日に「原告は来ないほうがよい」と強く言ったりして、原告の弁明・反論の機会を奪った上で、原告が欠席した平成12年3月28日の調停期日ににおいて、原告と被告が発行会社に対し、連帯して3500万円の損害賠償責任を負うとの内容の調停を成立させ、原告にその半額である1750万円の支払い義務を負わせた(ただし、その後保険金が支払われ、原告と被告はそれそれ750万円ずつ負担した。)。これについてhさ、本件事務所の上司であった被告が、雇用主の立場を利用し、原告に、業務上本来負うべき理由のなお債務を負わせたものであって、労働契約うえの法的義務に違反したのであるから、上記1750万円及び当該調停に要した原告の弁護士費用300万円の合計2050万円については、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害であるとはいえ、原告の被告に対する2050万円の損害賠償権が発生している。

なお、下記(被告の主張)(4)において、原告が富士本欣伸弁護士(以下「富士本弁護士」という。)に宛てて送ったとされるメールは、原告が作成・送信したものではない。

(被告の主張)

  1. 上記(原告の主張)(1)について、原告は、被告が婚約を一方的に解消したとして、そのことが不法行為に当たると主張するが、婚約は身分上の契約関係でり、仮に婚約したにもかかわらず結婚しなかったとしたら、債務不履行を構成することはあっても、それが不法行為に当たるということはできないから、原告の不法行為の主張は主張事態失当であるし、原告は、結婚約束(婚約)についての用件たる申し込みの意思表示及び承諾の意思表示のいずれも主張していないから、原告の債務不履行の主張も主張自体失当である。

また、主張自体失当ではなかったとしても、上記1(被告の主張)のとおり、原告と被告との間に婚約が成立したということはできないから、原告の主張は認められない。

(2)上記(原告の主張)(2)について、原告は、本件各マンション居室の家賃などを被告が負担する旨、原告と被告が約束していたことを具体的に主張しておらず、被告の債務負担根拠を主張していないから、原告の主張自体失当である。

また、原告は、被告の債務不履行及び不法行為を主張するが、被告は原告と上記のような約束をしていないから、債務不履行は認められないし、原告が自らの判断で賃借し、居住などした本件各マンション居室等の家賃や光熱費等を自らの判断で支払ったことにつき、不法行為の用件たる権利等の侵害、違法性、被告の行過失、原告の損害のいずれも認められないから、不法行為にも当たらない。

な、原告は、被告が神保町マンション居室の最初一年分の野心の半額である61万2000円を原告に支払ったとするが、被告は、原告が本件事務所を退職した後、入所した事務所を何度か変えるたびに相談を受けていたため、原告に案件を紹介し、被告が紹介した案件で原告が弁護士費用を取りはぐれた場合などに埋め合わせ等をしていたところ、その一環として、61万2000円を支払った可能性があrうものであって、同支払いがあtったおしても、原告が主張するような家賃の支払いではない。

(3)上記(原告の主張)(3)について、原稿は、本件土地の購入費用及び本件住居の建築費用などの合計約1億8000万円の半額を被告が負担する旨、原告と被告が約束していたことを具体的に主張していないのであり、被告の債務負担根拠を主張していないから、原告の主張は主張自体失当である。

また原告は、被告の債務不履行及び不法行為を主張するが、被告は原告と上記のような約束をしていないから、債務不履行は認められないし、原告が自らの判断で本件土地を購入し、本件住居を建築したことにつき、不法行為の要件たる権利等の侵害、違法性、被告の故意過失、原告の損害のいずれも認められないから、不法行為にも当たらない。

  1. 上記(原告の主張)(4)について、本件社債案件に関するトラブルは、発行された転換社債の株式への転換条件が交渉の途中で変更されたうえところ、その最終的に変更された契約条項を本件事務所が見落としたと日興證券が指摘してきたものであるところ、原告は当初はこの見落としの指摘に対して弁解していたが、日興證券からの反論を受けて弁解を撤回せざるを得なくなり、最終的に原告に過失があったことを前提として弁護士賠償責任保険の請求をしたのであるから、原告自身自らの過失を認めたものである。

また、本件調停では、日興證券は発行会社に対して4億3000万円近くの解決金を支払うこととされたのであって、見落としをしたと責任追及された立場の弁護士が3500万円の負担となったことは調停の条件として

は穏当であった。

さらに、調停時には、原告は、自身の司法研修時代の教官であった丸山利明弁護士(以下「丸山弁護士」という。)を代理人とし、被告は本件事務所の藤本弁護士を代理人としたもので、それぞれ別々の代理人を立てた上で、原告は、本件調停の期日前に藤本弁護士に対し、「3500万円払うのが落ち着きどころと考え直しました」、「火曜日には3500万円の線で妥結してください」、「月曜日にだいたい先が見えた場合には、私は調停期日を欠席します。丸山先生に一任していますし、もともと大事な会合と重なっていますので」などとメールし(乙11)、最終的に本件調停を成立させたのであるから、原告主張のように、調停への出席が被告により妨害され、調停内容が原告の意に反するものであったとの指摘は当たらない。

なお、原告は、請求の根拠として、労働契約上の法的義務の違反を挙げるが、原告は勤務弁護士として本件事務所に参画しており、被告との間に労働契約はなかったし、本件調停が成立した当時、原告は既に本件事務所を退職しており、その意味でも被告との間に労働契約は存在しなかったのであるから、労働契約の違反を根拠とする原告の主張は失当である。

3 争点3(原告と被告との間の和解契約の成否)について

(被告の主張)

平成24年7月、原告は、被告に対し、被告との関係の終了に当たっての解決として、5000万円を貸付金名目で要求したため、被告は、堀内弁護士を代理人として、原告に対し、同弁護士を数字手「今後、一切、経済的支援の要請や要求をしないこと」を条件に一定に経済的支援をする意思を示した。

これに対し、原告は、1700万円を和解金として提示してくれればその場で合意するとし(乙16)、結局、同月26日に被告から1700万円を「不法行為による損害賠償(慰謝料)として」受領した(乙17、18)。

このような経緯からすると、原告と被告は、平成24年7月26日に被告から原告に対して1700万円を支払うことによって、両者間の一切の関係を清算し、原告はそれ以降被告に対してなんらの請求もしないとの内容の和解契約が成立したものといえるから、仮に、上記2(原告の主張)の原告の被告に対する各損害賠償請求権が発生していたとしても、これらの請求権は上記和解契約によって消滅した。

(原告の主張)

被告は、原告の1700万円の受領によって和解契約が成立したと主張するが、原告は1700万円を受領したものの、これは損害賠償金の一部を受領したものにすぎず、原告と被告との間の一切の関係を清算し、原告がそれ以降被告に対して何らの請求もしないという意図でこれを受領したものでなく、原告と被告との間で被告主張の趣旨の和解契約が成立したということはできないから、原告の被告に対する各損害賠償権は消滅していない。

原告が1700万円を受領したのは、被告の代理人であった堀内弁護士が、①原告がいわれのない請求をしてきて被告を脅していると原告の両親に言いつける、②被告への要求を東京地裁破産部に通知し、原告が選任されている管財人を辞めさせると述べて原告を脅迫し、③原告の法律事務所に被告との交渉について、わざと分かるようにFAXをして、原告の法律事務所ないでのめ伊予を傷付けるという方法でその受領を強要したためであって、原告と被告との間のなんらの清算の意図もない。

4 争点4(原告と被告との間の婚約の公序良俗違反該当性及び原告の支出の不法原因給付該当性)について

(被告の主張)

仮に原告と被告との間で結婚の約束が存在したとすれば、それは被告の妻に対する不法行為であるから、公序良俗違反により無効であるしこれを前提として原告が何らかの支出をしたとしても、その支出についての被告に対する損害賠償請求権は、民法708条の類推適用によって認められない。

(原告の主張)

被告が既婚者であっても、その婚姻が戸籍上のものだけで破綻しているのであれば、原告の行為は不法行為に該当しないし、本件で、原告によって被告の婚姻関係が破綻したというような事情もない。また、被告は、原告に対し、最初から結婚を前提に付き合ってほしいと言っているといころ、原告は、その言葉で、被告は戸籍上は既婚者であっても既に被告の婚姻関係は破綻していると信じた。

これらの事情からすると、原告と被告との婚約は被告の妻に対する不法行為には該当せず、公序良俗に違反するものではないから、被告の主張は理由がない。

また、そうある以上、婚約を前提とした原告の支出についての被告に対する損害賠償請求権が民法708条の類札適用によって認められないとする被告の主張は理由がない。

5 争点5(消滅時効及び除斥期間の成否)について

(被告の主張)

仮に原告の被告に対する何らかの請求権が発生していたとしても、被告は、原告の不法行為に基づく損害賠償権の消滅時効を援用するから、被告は、平成26年4月15日(原告の本件訴訟提起時)から3年以上前の事実を基礎として損害賠償義務を負うものではなく、これらが慰謝料算定の基礎になることはない。

また、不法行為から20年を経過すると除斥期間にかかるところ、原告は被告に対して、同日から20年以上前(平成6年以前)の行為について不法行為による損害賠償権を行使できない。

(原告の主張)

原告と被告との間の男女関係はずっと継続しており、平成25年9月までその清算について話合いをしていたのであるから、時効は進行していない。

除斥期間の主張については争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(原告と被告との間の婚約の成否及びその不履行の有無)について

  1. 認定事実

前記第2の1記載の前提となる事実並びに証拠(甲17、乙39、原告本人、被告本人)に加え、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 原告が本件事務所に入所してまもなくの平成3年12月、被告は、原告を誘い、霞ヶ関ビルの地下の店舗へ二人で行って、飲食を共にした。そして引き続き、被告は、原告を誘い、二人で銀座の小さなバーへ行き、原告を口説いた。その後、被告は、原告を家まで送ると言って、原告が乗ったハイヤーに乗り込み、原告の自宅前でハイヤーを降りた原告に対してキスをした。

イ 平成4年2月頃、被告は、食事に行くタクシーの中で、原告に対し、「今度は変なことはしないので、一緒に柴又にお参りに行こう」と言い、被告と原告は、デートのような形で柴又へ出掛けた。このようにして二人で会うことが1、2回あり、その後原告と被告は肉体関係を持つようになった。

ウ 上記イ以降、原告と被告は、ホテルで会っていたが、平成5年3月から平成11年8月までの間、原告は、賃料月額9万3000円を自ら負担して用賀マンション居室を賃借し(前記第2の1(4))。この間、原告と被告は、用賀マンション居室で定期的に会い、肉体関係を持った。原告は、普段は両親と共に自宅で居住していたが、用賀マンション居室で飛行と会うときは、原告が本件事務所を早めに出て先に用賀マンション居室へ行き、被告のために短時間で食事の支度をした。被告はとまらずにぬ自宅へ帰ったので、その後に原告は短時間で掃除をして後片付けをし、その日は用賀マンション居室に泊まるなどした。

エ上記イ以降、被告がIPBAに参加するために海外へ行く際、毎年、原告も参加したが(甲8)、原告文の参加費用は原告が自分で不異端した。また、被告が外債発行の仕事で、大阪、名古屋、福岡などの地方の上ジョイ企業にデュ-デリジェンスのため2泊から3泊出張する際、被告はほとんどの場合原告に同行した。

これらの出張の際、クライアントと散会した後、被告が原告のホテルに来て、肉体関係を持ち、朝まで一緒に過ごすことがあった。

オ 平成9年、原告は本件事務所の弁護士として、本件社債案件に関与したところ、本件事務所のクライアントであった株式会社インテック(以下「インテック」という。)が発行した転換社債を購入したCitadelというヘッジファンドから、インテックに対し、転換権の行使によって交付された株式数が英文の契約書の条項に従う算出した株式数より大幅に少なく、その結果5700万円のsんがいを被ったとクレームが入る仕事上のトラブルが生じた。そのトラブルの解決前である平成11年8月、原告は本件事務所を退職した。

その後、本件社債案件の上記トラブルに関連して、インテックが申立人、日興證券が相手方となった本件調停が行われ、原告は丸山弁護士、被告は藤本弁護士をそれぞれ代理人として立てて利害関係人として本件調停に参加し、平成12年3月28日、日興證券がインテックに対し、解決金として連帯して3500万円を支払うとの内容を含む調停が成立した。(甲7)。

カ 原告は、平成11年9月から平成15年7月までの間、賃料17万1000円を自ら負担して池之端マンション居室を賃借し(前記第2の1(4))、この間、原告と被告は、池之端マンション居室で、上記ウの用賀マンション居室のときと同様、同マンション居室を訪れた被告は泊まらずに自宅へ帰るなどの形での交際を続けた。

キ 平成14年5月17日、原告は、中央住宅との間で本件売買契約を締結し、本件土地を取得した上、平成15年1月26日及び同年3月28日、三菱地所ホームとの間で本件請負契約を締結し、本件住宅を建てた。

ク 原告は、平成15年8月から平成20年3月までの間、賃料月額10万2000円を自ら負担して神保町マンション居室を賃借したところ(前記第2の1(4))、この間、原告と被告は、神保町マンション居室で、上記ウの用賀マンション居室のときと同様、同マン

ション居室を訪れた被告は泊まらずに自宅へ帰るなどの形で交際を続けた。

  1. 婚約の成否

ア 上記(1)の認定事実からすると、原告と被告は、平成4年2月から遅くとも原告が用賀マンション居室を刈り始めた平成5年3月までの間に初めて肉体関係を持つようになり、以後、早くとも原告が神保町マンション居室を引き払った平成20年3月までの間、ホテルや本件各マンション居室において、継続的に肉体関係を持つとともに、それ以外にも、原告が本件事務所を退職した平成11年8月までの間、原告が被告を同行した本件事務所の出張での宿泊先ホテル等にいて肉体関係を持っていたことが認められる。このように、原告と被告は、遅くとも平成5年3月から少なくとも15年以上の長期にわたり、上記のような形で性交渉を伴う交際を続けていたことが認められる。

しかしながら、上記(1)の認定事実やその他の本件全証拠に照らしても、原告と被告との間で、結納や指輪の交換等外形的に婚約を示唆する行動が交わされた事実を認めることはできず、そのことは原告自信も供述するところである。

また、それだけでなく、上記(1)の認定事実やその他の認定事実やその他の本件全証拠に照らしても、原告において両親に被告を会わせて紹介したことはなく(原告本人29頁)、被告は既婚者であって(前記第2の1(3))、原告と結婚するためには法律上の障害があったにもかかわらず、被告において、妻との間で離婚の協議が開始されたり、原告の存在を明かした上での夫婦の将来についての話合いがされたりした事実を認めることはできない。かえって、被告は、本件各マンション居室で原告と会った日にも同マンション居室に泊まることなく帰宅していたものであり(上記(1)ウ、カ及びク)、妻との婚姻関係が破綻していたとの事実をうかがうことはできず、他方、原告と被告のいずれについても、結婚に向けて具体的な行動を取ったとの事実は認められない。

さらに、上記(1)の認定事実や本件全証拠に照らしても、原告と被告の二人の間においてすら、結婚の時期や結婚に向けた手続き等について具体的な話が進んでいたということはできず、そのことは原告自信も供述するところである(原告本人30頁)。そして、二人の交際の形も前記のとおり、本音kん事務所の出張のとき以外は、原告が借りているマンション居室で二人で会って、肉体関係を持つものの、被告は泊まらずに妻のいる自宅へその日のうちに帰り、原告のみその日はマンション居室に泊まるなどしたというもので、そのような関係が内縁関係と評価できないことはもちろん、婚約を前提とした同性とも評価できないものであった。

被告は、原告との交際が開始した時点で既に既婚者であって(前記第2の1(3))、原告自身もそのことを認識していたところ(弁論の全趣旨)、上記のように、原告と被告との会いあだでは、結婚に向けた具体的な行動は取られておらず、結婚の時期や結婚に向けた手続き等についても具体的な話が進んでおらず、二人の交際の形態も、内縁関係とも婚約を前提とした同性とも評価できないような状況の下で、仮に、原告主張のとおり、原告と被告との間において、「おれもこの先人生は長くないから、(本件事務所の共同経営者である)桝田さんのような若い人と結婚して、充実した人生を送りたい、結婚を考えてみてくれないか」(前記3の1(原告の主張(1)ア)との発言や、原告からの「私たちの将来のこと、結婚のことを話してくれなくなったが、私たちはこれからどうなるの」との質問に対する被告の「大事にするから心配しないで。もっと自身をもって俺と付

このような言辞が交わされたころ自体を認めるに足りる証拠はないが、それをおいたとしても)、それは両者間における恋愛感情を高め、男女関係を維持するためのものとみるのが相当であり、それを超えて、これをもって法的保護に値する婚約が成立したと認めることはできないというべきである。

イ この点につき、原告は、原告の両親と原告及び被告で将来住むために、本件住居につき、二世帯同居の設計とし、原告及び被告の家庭と原告の両親の家庭のそれぞれの澄む場所を区分けしたデザインにした上で、原告が三菱地所ホームと本件請負契約を締結して、本件住居を建築したとsでぃ、これを婚約を推認させる事実として主張するとともに、被告の「夜遅かったりするので、玄関は別にしてほしい」、「夜遅く帰ることもあるから外怪談がいい」との意向を反映し、日当たりが一番よくて、東南の角の一番いい部屋を被告の書斎としてデザインしたなどと居術する(原告本人5~6頁)。

しかしながら、穂引見で、被告が原告に対して、本件住居に関して原告が供述するような意向を示したという事実が認めるに足りる証拠はなく、むしろ上記で説示した事実からすると、被告が原告に対して、これらの意向を示したと認めるのは困難である。そうすると、原告が、本件住居を被告との同居を見越した二世帯住宅のデザインにした上で建築したとしても、それは、原告が将来の被告との同居を期待して建築したとはいえても、それにつき、被告の希望や了承があったとは認めることはできないから、このことをもって、原告意図被告との婚約成立の事実を推認することはできないというべきである。

ウ 以上のとおり、本件で、原告と被告との会いあいだに婚約が成立したと認めることはできない。

したがって、原告と被告との間の婚約の成立を前提に、被告がそれを一方的に解消したとする原告の主張も採用することはできない。

2 争点2(原告の被告に対する各損害賠償請求権等の発生の有無及びその額)について

  1. 結婚に関する不法行為又は債務不履行又に基づく損害賠償請求等

ア 原告は、被告による一方的な婚約の解消が不法行為又は債務不履行に該当するとし、そのことをも根拠として、慰謝料5000万円、本件カクマンション居室の賃料等の残額2916万2000円並びに本件売買契約代金及び本件請負契約代金などの半額である9000万円をそれぞれ損害賠償として請求するが、上記1で説示したとおり、本件で原告と被告との間に婚約が成立したと認められないから、それを前提とする原告の被告に対する損害賠償請求権は発生しておらず、原告のこれらの主張は認められない。

イ また、原告は、婚約の一方的な解消とは別ぬ、被告が原告と結婚する意思はないのに、原告が早く結婚したいという意向をもっていたことを知りつつ、原告に対し、」原告と結婚する意思がないことを早期に伝えなかった、又は結婚の意思があるかのように振る舞い、原告を欺もうとしたとしても、これらを不法行為であると主張するものと解される。

しかしながら、上記1(1)に認定事実に照らしても、被告が、原告と結婚する意思があるように積極的に装ったと認めることはできず、また上記1(2)で説示したとおり、仮に原告と被告との間で将来の結婚にかんする言辞が交わされていたとしても、それは両者間における恋愛感情を高め、男女関係を維持するためのものを超えるものとも認めることはできないことからすると、本件で、被告が、原告に対し、結婚する意思があると欺もうとしたものと認めることはできず、被告にいて、原告と結婚する意思がないことを積極的に早期に伝えるべき作為義務があったということはできない。原告と被告とは、被告が既婚者であることを前提として、男女関係を伴う交際をしていたもので、原告と被告間で、仮に、将来、被告が妻と離婚して原告と結婚したいとの話が交わされていたなどとしても、こいれは、将来の不確実な希望の話にすぎないものといわざるを得ず、それらをもって、原告と被告のいずれか一方から他方に対する不作為行為や債務不履行が成立すると認めることができるものではない。

その点を含め、本件において、原告主張に係る被告の不作為行為や債務不履行を認めることはできない。

以上によれば、被告の不法行為をいう原告の上記主張も採用することができない。

(2) 支払合意に基づく本件各マンション居室の家賃等の請求

ア  次に、原告は、本件各マンション居室は二人で会うための場所として借りたものであるところ、原告が、被告との結婚を前提に、本件各マンション居室を借りるに際して被告に事前に相談し、被告が後に支払うとの承諾をしたことを主張し、このような費用負担の合意に基づき、被告に対し、本件各マンション居室の家賃、管理費等の合計2916万2000円を請求するものと解される。

しかしながら、本件各マンション居室は原告によって賃借されたものであるところ(前記第2の1(1))、本件各マンション居室の家賃等の費用を後日被告が支払うとの内容の合意については、それを認めるに足りるなんらの的確な証拠も存在しない。また、上記1(1)の認定事実ウ、カ及びクのとおり、原告と被告が本件各マンション居室を二人で会うために利用していたことは認められるものの、そのように利用していたことから直ちに、その費用を被告が負担する旨の合意があったとまで推認することができるものではない。

以上からすると、原告と被告との間で、本件各マンション居室の家賃、管理費等の費用につき、被告が負担する旨の合意が成立していたと認めることはできないから、このような合意を前提とする原告の被告に対する同費用相当額の請求権が発生しているということはできない。

イ なお、原告は、被告が神保町マンション居室の最初の一年分の家賃の半額である61万2000円を支払っていると指摘し、このことも原告と被告との間の上記合意を推認させる事実の一つとして主張するものと解されるが、神保町マンション居室は、原告が最初に用賀マンション居室を借りてから約10年後が経過した後に借りたマンション居室であって、被告から原告への61万2000円の金銭の提供があったとしても、」それにより、上記合意の存在を推認することは困難であるし、本件で、上記金銭の提供が、原告主張のとおり、神保町マンション居室の最初の1年分の家賃の半額分として提供されたものであると認めるに足りるなんらの証拠もない。かえって被告が「事務所をやめた後も案件を回したようなことがあって、その場合によっては依頼者のほうから性器の報酬を取れないこともあったと思いますので、もしかするとそういう形でのお金を渡したことがあるのかもしれません」との一定の合理的な理由を供述していること(被告本人9頁)に照らすと、原告が主張する金銭の提供という事実は原告と被告との間の上記合意を推認させるものということはできない。

  1. 支払合意に基づく本件売買契約代金及び本件請負契約代金などの請求、

さらに、原告は、被告と結婚して、被告及び原告の両親と将来同居するために、本件土地を購入するとともに、本件住居を建築したとして、原告が本件売買契約及び本件請負契約を締結するに際し、被告に事前に相談し、被告がこれらの費用の半額を負担することについて了承したと主張し、このような費用分担の合意に基づき、被告に対し、売買代金及び請負代金の合計約1億8000万円の半額である9000万円を請求するものと解される。

しかしながら、本件売買契約及び本件請負契約の各契約書を交わした当事者はいずれも原告個人のみであり、被告は契約書の作成に関与しておらず、保証人にもなっていないところ(甲10~12)、原告主張のとおりの上記費用負担の合意については、それを認めるに足りるなんらの的確な証拠も存在しない。また、上記1(2)イで説示したとおり、原告が、本件住居を被告との同居を見越したに生態住宅のデザインにしや上で建築したとしても、それは原告が将来の被告との同居を意識して建築したといえても、それにつき、被告の希望や了承があったと認めることはできないから、そのような事実から原告と被告の事実を推認することができないだけでなく、被告が本件売買契約及び本件請負契約のだいきんの半額文を負担するとの内容の合意があったことを推認することもできない。

以上からすると、原告と被告との間で、本件売買契約及び本件請負契約の代金等の費用の半額につき、被告が負担する旨の合意が成立していたと認めることはできないから、このような合意を前提とする原告の被告に対する上記請求権も発生しているということはできない。

(4) 本件調停の解決金及び弁護士費用の請求

原告は、本件調停の調停期日に先立ち、原告には責任がなかったにもかかわらず、被告が、原告の弁明・半音の機会を奪った上で、原告が欠席した平成12年3月28日の調停期日において、原告と被告がインテックに対し、連帯して3500万円の損害賠償責任を負うとの内容の調停を成立させ、原告にその半額である1750万円の支払義務を負わせたとし、これにつき、被告の債務不履行又は不法行為を主張して、被告に対し、損害賠償として、原告が支払うことになった解決金1750万円及び本件調停に要した弁護士費用300万円の合計2050万円を請求する。

しかしながら、平成12年3月28日の調停が成立した期日に原告自身は出席してはいないものの、上記1(1)オで認定したとおり、本件調停において、原告は、あえて被告の代理人とは異なる丸山弁護士を自らの代理人として選定し、同期日には同弁護士が原告の代理人として出頭した上で、原告主張の条項を含む調停が成立している(甲7)。そうすると、原告には、少なくとも同代理人を通じて、調停期日において、弁明・反論する機会はあったといえる。

また、調停は、利害関係人の参加が禁止されている手続きではなく、飽くまで任意の合意がある場合に限って成立する手続であるところ、原告は、本件調停の時点において既に法律の専門家である弁護士であったのであるから、仮に原告主張のとおり、調停期日に先立って、被告が原告に対し、「一切の責任を押し付けるようなことはしないから、日興證券との交渉は私に任せなさい、他の弁護士に迷惑を掛けないように内緒でうまく納めてあげる」と命令したり、調停期日に「原告は来ない方がよい」と強く言ったりしたというようなことがあったのだとしても、平成11年8月に既に本件事務所を退職していた以上(前記第2の1(2))、被告の指示に拘束されることなく、自らの立場で調停に出頭し、自らの意見を主張したり、意思に反する条件の調停は代理人を通じて合意しないこととしたりすることで、弁明・反論名をし、意にはんする調停を回避することができたということができる。

さらに、本件調停が成立hした時点において、原告が、自己の代理人である丸山弁護所為に対し、何らかの異議を唱えたとの事実も認めることができない。

そうすると、仮に、本件調停に先立って、原告が主張するような被告からの原告に対する言動があったとしても、(本件でそのような事実を証拠上認めることはできないが、それをおいたとしても)、それが被告による不法行為又は債務不履行に当たるということはできないのであって、原告の飛行に対する上記解決金及び本件調停に押したとする弁護士費用相当額の損害賠償請求権が発生しているということはできない。

  1. 以上によれば、原告が前記第3の2(原告の主張)で主張する被告に対する損害賠償件はいずれも発生していないから、現行の飛行に対するこれらの請求はいずれも認められない。

また、原告は、そのほかにも、被告に対し、理由のない退職強要が被告の不法行為又は労働契約上の債務不履行に当たる、労使契約上の意に沿わぬセクシャルハラスメントが不法行為又は債務不履行に当たる等、種々主張するが、これらの事実があったことを認めるに足りる証拠はなく、いずれも採用することはできない。

第5 結論

以上によると、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これを破却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所第30部

裁判長裁判官 本多知成

裁判官 篠原 礼

裁判官 山田裕章

参考サイト:
江尻隆のwiki

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